それでも好きな色のリップを塗ってほしい。
初めて桃奈のことを見たのは暑い夏の日のことだった。
ちょうど桃奈が加入する少し前に田村芽実ことめいめいの卒業があった。
2期ヲタだった私は当然抜け殻となり前のように熱心に情報収集が出来なくなっていた。
あの日、あやちょが九位一体のステージで言った「こんなに完成したと思ったのに今めいめいが卒業するなんて信じられない(要約)」という言葉が今になっても忘れられないほどに、九位一体の頃のアンジュルムがとても好きだった。
けれど、そんな私の思いなんて知らずに新メンバーが加入してアンジュルムは前に進んでいる。ファンとして応援しなければ。そんな複雑な心境の中私は西宮ガーデンズに向かっていた。
その日はリリースイベントで、今見てもめちゃくちゃ可愛い魔女っ子メグちゃんのMVに心を躍らせて向かった久しぶりのリリイベ。
私は客席から見てステージ左端のほうに座っていて、ちょうどそのとき目の前に居たのが桃奈だった。
動画で見ていたよりもずっと小さくてかわいくて元気いっぱいの女の子。先輩メンバーでも辛いはずの夏の暑い日差しの中、慣れないステージとパフォーマンスにも関わらず彼女は終始笑顔で客席の端まで手を振ってくれていた。
リリイベの後の握手会、普段は緊張して何も話せない私が「めちゃくちゃ良かったです、頑張ってください」と桃奈に伝えると、嬉しそうに首を縦に振りながら腕をぶんぶん振ってとても強い力で握手をしてくれたことは今でも覚えている。
その日からアンジュルの応援をする理由に桃奈の成長を楽しむことが加わった。
最初は少し猫背気味だったかわいい背中が自信を持つ度にピンと背筋が伸びていく姿が好きだった。
先輩の真似をするようなお化粧やパフォーマンスをしたかと思えば自分の似合うスタイルを見つけて桃奈らしさのお洒落や表現を楽しんでいる姿が好きだった。
最年少なのに大人っぽい外見だった桃奈が時を重ねるごとにどんどん外見も中身も素敵な女性になっていくところが好きだった。
本当は辛いはずなのに先輩の卒業を繰り返すたびに涙を見せずに送り出したりとどんどん強くなる桃奈の姿が好きだった。
桃奈の笑顔やパフォーマンスが大好きで自分よりもだいぶ年の離れた10代の女の子に何度も元気をもらっていた。
ヲタクいうのは我儘で未練がましい生き物なので笠原桃奈がアンジュルムのリーダーになって引っ張る未来が見たかった、という夢は多分未来永劫言い続けると思う。
けれど、やっぱり桃奈には決められたレールなんて走らずにいつまでも自分の好きな選択をしてほしい。
あの日、九位一体のステージで感じた思いと同じように「こんなにもアンジュルムは最高だしグループにとって桃奈が必要なのにどうして」と思わせてくれた桃奈はあの日加入した桃奈が自分で言った「最強の新人」になったんだと私は思うよ。
アンジュルムのかっこいい先輩の中に笠原桃奈の名前が刻まれることを本当に誇りに思う。
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